20世紀ノスタルジア オリジナル・サウンドトラック
1997年7月25日発売 ワーナーミュージックジャパン WPCV7411
画像は、某オークションサイトから拾ってきました。
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はじめに
原将人監督は映画をつくるにあたって、その映画の音楽から作っていくことが多いという。
作曲をはじめたのは、高校在学中に制作した作品「おかしさに彩られた悲しみのバラード」で
ぴあフィルムフェスティバルグランプリを受賞し、その授賞式の席で審査員のひとりであった
武満徹に選曲のセンスを認められ、加えて作曲を薦められたことがきっかけらしい。原監督初の
劇映画「20世紀ノスタルジア」もその類に漏れず、最初に完成したのは音楽の部分だそうだ。
原監督自身も「20世紀のワグナーがやりたかった」と明言しているし、劇中のミュージカルシーンが
映画の肝となっていることからも分かる様に一般の映画に比べてこの作品における音楽と物語の
関係は、より密接であり、不可分といっても差し支えない。
「20世紀ノスタルジア オリジナル・サウンドトラック」はそんな原監督の音楽へのこだわりが
現れた映画「20世紀…」のある種リアレンジバージョンとして聴くことができる。音で聴く
「20世紀ノスタルジア」。このサウンドトラックには賛否両論もあろうが、ここでは監督の趣向を
肯定的に汲みつつ、その楽曲とアルバム構成について私観を述べていきたいと思う。
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楽曲紹介
註:パラグラフの末尾に記してある括弧はサウンドトラックの演奏時間を示している。
たとえば4曲目の「忘れちゃいやよ」に、[1'11〜3'23"]とあるが、それは楽曲部分が
該当トラックの1分11秒から3分23秒(演奏終了)までに相当することを意味する。
セリフ部分の記述に現れる括弧も同様。
1.
チュンセ&ポウセ
作曲:原将人 編曲:青柳誠
映画の冒頭部に流れる印象的な小品。冬の光の中、静かにたたずむ清洲橋の全景に
独特なデザインのタイトルが浮き上がってくる映画のワンシーンを連想するひとも多いだろう。
ビブラフォンに似た澄んだ音色のキーボードがメロディを奏で、ピアノのアルペジオと
ベースが寄りそっている。ピアノはどうやら生ピアノのようだが、静かに根音を刻む
ベースに関してはクレジットがない。演奏はすべて青柳誠による。[0'46"]
2.
ニューロンシティの夜(遠山杏ソロ)
作詞作曲:原将人 編曲:塩見光昭
冒頭にフィーチュアされるセリフは、映画の後半、杏の手による地球レポート「ポウセ発
スペシャルエディション 〜遠山杏について〜」から引用されたもの。映画本編を尊重すれば、
杏による自己の肯定(徹への愛情告白含む)、アイデンティティ獲得(笑)という劇中重要な
意味をもついわば「結」の部分のネタばらしに違いないのだが、実際は映画を見てからサントラを
聴く人が多いのだろうから、あまり問題はないのかもしれない(個人的には長らく違和感があった・笑)。
徹との出会いのシーン、清洲橋ではインスト(後述)で使用され、またふたりで制作した
ミュージカル風SF映画(思ったがこの映画内映画のタイトルも「20世紀ノスタルジア」という
のだろうか・笑)の撮影ではおそらく白眉になったと思われる東京タワーでのミュージカルシーン
(杏&徹デュオ)でも使用、そしてエンディングでも徹と杏のデュオバージョンが使われている
(未確認だがおそらく演奏時間にはいくらか差があると思われる・またエンディングで流れるものの
最末尾には広末の「はーい」という声が聞える)。これ以外にも没となったテイクが幾つか存在
するのかもしれない。
サントラ版に収録されている杏ひとりのパフォーマンス(笑)による「ニューロンシティの夜」は
本編では使われていない。反復するフレーズが多く、4つ打ち。テクノっぽいアレンジだ。
プログラミング/キーボードは塩見光昭、小谷英爾による。[3'27"]
3.
ニューロンシティの夜(インスト)〜宇宙人のキミへ(遠山杏&片岡徹)
作詞作曲:原将人 編曲:塩見光昭
冒頭からはじまる杏と徹のやりとりは清洲橋での出会いのシーンからの流用。ヘッドフォンを着用し
耳をすませるとよく分かるが微妙な部屋鳴りがある。おそらくアフレコ時に録音されたトラックを流用
しているのだろう。映画本編とは微妙に会話の間に差があるように感じられる。唐突に自己紹介をし、
自分の中の物語に浸りきって、映画の制作に誘う徹はほとんど変人だが、杏に対するテストという
意味合いも含まれていたのだろうか(深読みし過ぎ・笑)。「ニューロンシティの夜」はここで登場する
徹のキャラクターに合わせて動的かつユーモラスなアレンジが施されている。[〜2'37"]
劇中では徹によって「宇宙人のテーマ」と紹介される「宇宙人のキミへ」。片岡徹による脱力感溢れる
ヴォーカルがききものである(笑)。というか個人的にはこの無邪気なテイストが好きだったりするのだが。
打ち込みドラムのチープな音とスキップでもするかの様に進行するベースラインに載って流れる明るい
メロディ。杏の歌唱ではこの曲がとても自然な感じに歌っている様に感じられ、実は劇中でいちばん好きだ。
(確証はないが、「宇宙人のキミへ」はメロディを構成する音域の幅が他の曲より狭く感じられ、その為
一番歌いやすかったのだろう)[2'37"〜6'19"]
4.
忘れちゃいやよ(遠山杏ソロ)
作詞:最上洋 作曲:細田義勝 編曲:小谷英爾
当サントラの構成の特徴として、劇中のセリフを利用してアルバム全体を通して聴くと、なんとなく
ストーリーが感じられる様にしていることが挙げられると思う。ただ全曲でわずか34分16秒に過ぎない
とても短いアルバムなので、ダイジェストすぎる感も否めない。何も考えずに聴いておけばいいのだろうし、
逐一映画とつきあわせて構成を確認するほどまでには至らないのだが。
この「忘れちゃいやよ」も冒頭から約1分間、杏による地球人レポート(ナンバー9)のシーンからの
セリフが流用されている。これは映画本編でも地球人レポートを部屋で撮ってから、越中島のテラスで
「忘れちゃいやよ」を歌い踊るシーンがあるので流れにも問題はないのだが、別トラックにしてくれても
よかったのに、と思う。[〜1'10"]
「忘れちゃいやよ」は、昭和15年(1940年)、渡辺はま子によって歌われ当時のビクターから発売された
ヒット曲。時局が時局だったので(註も何もないが当時の日本は大戦下にあった)「風俗をびん乱する」(笑)
という理由で当局からお咎めを受けた(ていうか発禁処分・当時は日本国内言論弾圧まっさかり)。劇中でも
屋形船のシーンでオリジナル版が流れる。個人的にはオリジナルを一度なにかの拍子で耳にしたことがある
のだが(おそらくNHKの深夜のラジオか何かだと思う)「ねーえ」としなを作るところがことさら扇情的だったとは
思えない(戦前でもあれくらいのお色気の歌謡曲は他にもあった)。ただ、当時としてはおそらく言論・表現の
弾圧それじたいが目的化していたこともあって、スケープゴートにされたのかもしれない(おもしろいことに、この
「忘れちゃいやよ」のヒットを受けて、幾つかお色気路線の流行歌も発表された)。原将人がここになぜ
「忘れちゃいやよ」という楽曲を持ってきたのか、ということはあまり深読みしてもしかたがないが、実にノスタル
ジックな歌詞だし、戦争より恋だろうという気分もあったのかもしれないし、杏のキャラクター性を高めるためにも
有効だったのかもしれない。原将人自身、極めて独立した立場を貫く映画作家なので、表現の自由が弾圧された
歴史的経緯には思うところが少なくないのだろうと、推察できなくもない。
ちなみに「忘れちゃいやよ」の演奏は、プログラミング/キーボード:小谷、シンセ・アコーディオン:青柳、
アコースティック・ギター:塩見という布陣による。[1'11"〜3'23"]
5.
20世紀ノスタルジア(遠山杏ソロ)
作詞作曲:原将人 編曲:小谷英爾
名曲であり、本作の主題歌(本義で・タイアップの主題歌とは趣がずいぶん違うことよ)。杏の歌は決して
うまくはないが、いい味を出していると思う。緊張感のあるイントロはおそらく小谷の手によるもの。この曲は
歌詞に原将人のカラーが一番よく出ているように思う。高校生が作詞したという設定なら、ちょっとアレだけど(笑)。
個人的にはこの曲はサントラで繰り返し聴きすぎて劇中での印象があまりないが、実際はこの後の9曲目「20世紀
ノスタルジア」(インスト)のあとに位置する。杏が家族や友人知人たちの姿を楽しげにカメラに収める劇中における
おだやかなクライマックスで流れる曲ではあるが、サントラの構成上、インパクトのあるこのヴァージョンを中盤に
据えたのだろう。[2'22"]
6.
ドリーミング
作曲:原将人 編曲:青柳誠
劇中では使用されていない楽曲。タイトルは、オーストラリアのアボリジニが個々人毎にもつ信仰対象
(ドリーミング)からつけたのだろう。映画では、杏が徹へ思いをめぐらしながら夏にふたりで歩いた場所を
たどるシーンにほぼ該当する。この後、ひろ子との衝突を経て杏は映画制作の再開を決意し、物語は
おだやかなクライマックスへと近づいていく。
杏のセリフは、物語の後半、はとバスに乗ったシーンのもの。効果的にストップモーションが用いられ、以前
発売されていた映画の記念テレカのデザインもこのシーンから採られていたり、「20世紀…」ファンにはわりと
印象の強い部分ではないだろうか。
蛇足ながら、徹のモノローグで都市文明や森へのノスタルジアというフレーズのネタになったのは、養老孟司
「唯脳論」ではないだろうか。徹が都市の機能を人間の脳の機能に例える場面でもヒントになっているように思われる。
徹は自己のコミュニケーション不全気味の心象を、猥雑で、ある種不毛な活動を日々繰り返す都市(東京)に
投影し過ぎたあまり、オーストラリアへと逃げなければならなかったのかもしれない(深読み)。[1'43"]
7.
光のごちそう
作曲編曲:青柳誠
ソプラノサックスの奏でるメロディが印象的な楽曲。映画本編では未使用。青柳の本領発揮といった感じの
フュージョン風のアレンジが施されている。おそらくサウンドトラック制作にあたり、映画本編とは関係なく
作られたものなのだろう。ひろ子と杏が桜木高校の放送室で衝突する場面の対話が部分的に流用されている。
映画では杏の自意識がはみでてしまった独白をフルで聞くことができ、かなり切ないが、サントラでは構成に
収拾がつかなくなることもあり、むろんカットされている。[1'37"]
8.
滅亡まで
作曲編曲:塩見光昭、小谷英爾
徹の「チュンセ発地球レポート スペシャル・エディション 〜滅亡まで〜」を元にした楽曲。映画本編で使用
されている楽曲と似ているが部分的に異なるようにも感じられる。ノイジーで反復する打楽器の音が、内省的な
徹の独白にマッチしたサウンドスケープ。この独白から感じられるのは、徹は欲望装置(笑)としての都市に強い
違和感を感じていたこと、そして「不眠症」であったこと(実際に病気だったのだ)、無への憧憬(実に思春期的な
心理ではないだろうか・厭世的な心理というよりは、自己破壊的なタナトスかな)だ。ここまで徹を追い詰めたものは、
おそらく映画によるものではなく、彼の環境的不遇さが直接的な原因だろう(「片岡徹について」で親の愛が欠如
していた、と個人的には結論付けた・笑)。彼の屈折の大きさは人間的な側面で杏と触れ合うことができず、あくまでも
物語(映画の制作)を通して自分自身を理解してほしいという特異な主張からも感じ取ることができる。[4'19"]
9.
20世紀ノスタルジア(インスト)
作曲:原将人 編曲:小谷英爾
映画の制作を再開し、新たな映像をカメラに収める杏の弾む心情をあらわすかのようにリズムパートが強調
された開放的なアレンジになっている。劇中では「ポウセ発 スペシャル・エディション 〜遠山杏について〜」の
部分に相当する。杏による「星と交信」という発言は、杏が徹(チュンセ)の文脈では他者とのコミュニケートを「交信」
と表現することに気づき「地球は滅亡しない」「ぼくは地球が大好きだ」(=徹くん大好きよ・笑)と物語(映画)を通して
徹にメッセージを送ったことの大きな裏づけになり得るだろう(苦笑)。ああ、なんて杏はいい子なんだ(笑)。[4'27"]
10.
チュンセ&ポウセ(エンディング)
作曲:原将人 編曲:青柳誠
徹と杏による映画の結末のアイデア出しがそのまま最終パートになるのだが、その対話部分の背景に流れるテーマ。
映画の冒頭部で流れたものと同じだが、演奏はすべて生ピアノによるもの。チュンセとポウセの再会シーンにふさわしく
聞こえる。[1'40"]
11.
ニューロンシティの夜(遠山杏&片岡徹)
作詞作曲:原将人 編曲:塩見光昭
徹がオーストラリアに行く前に、おそらくふたりが心理的にも肉体的にも(笑)一番接近したのが東京タワーでの映画の
撮影時にあることは想像に難くない。先日行われた「20世紀ノスタルジア鑑賞会」でも「いったいあの撮影中、ふたりに
何があったのか」と議論の的になった(ちょっとウソ)。東京タワーを背景に徹と杏が無邪気に歌い踊る「ニューロンシティの夜」は
その開放感と多幸感も含め、エンドロールにふさわしい選曲といえるだろう(徹と杏が撮っていた映画内映画のテーマソングは
この「ニューロンシティの夜」で、映画全体のテーマソングが「20世紀ノスタルジア」ということができそうだ)。ちょっと突き放して
聴きてみると、自主制作映画をいちゃいちゃしながら撮っているおかしなカップルの画も浮かんでくるのだが、そんな野暮を
言ってはいけない。あなたが,もしファンならば曲に併せて断固「えーてるたーい」と叫びつづけるべきである。[3'22"]
註:文中における小谷英璽氏の‘璽’は正しくは、‘邇’と表記する。
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おわりに
今回改めてサウンドトラックの構成全体を概観するために10数回にわたってアルバムを聞き返したのだが、やはり
原将人がなかなかのメロディーメーカーであることを再確認した。アレンジの功が奏しているのはとくに「20世紀ノスタルジア」
(杏ソロ)といえるのではないだろうか。緊張感と深みを持ち合わせたイントロが印象深い。楽器の音色に関しては特に
特筆すべきこともなく、わりと低予算でそつなく録音されたサウンドトラックという感じだ。これはこのサントラを貶めるものでは
ないし、「20世紀ノスタルジア」というラブストーリーと銘打たれて劇場公開された個人映画にはごくふさわしいもののように
思う。なにしろ個人映画なのだから、打ち込み中心というサウンドメイキングは実に的を射ている。などときれいにまとめるのも
ファン心理からだって!?(笑)まあ、いじめないでやってください。ぼくはこのサントラが好きなだけなんです。
2003年4月11日
ウツボカズラ
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参考文献:「20世紀ノスタルジア オリジナル・サウンドトラック」歌詞カード、20世紀ノスタルジア大事典
ニューロンシティーズのuniさんからは当ページ作成にあたり、たびたびご助言いただきました。非常感謝。